特集 2026.06.23

首都直下地震とは?想定される被害と住宅でできる地震対策を解説

首都直下地震とは?想定される被害と住宅でできる地震対策を解説

首都直下地震は今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されています。

発生した場合、最大約1.8万人の死者、約40万棟の建物被害、約83兆円の経済損失が想定されており、日本社会に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

「首都直下地震」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、その実態や備えについて詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。

今回の記事では、首都直下地震の概要から被害想定、今すぐできる備えまでをわかりやすく解説します。ぜひ防災対策を見直すきっかけにしてください。

首都直下地震とは?

首都直下地震とは、東京圏およびその周辺地域で発生する大規模な地震の総称です。首都直下地震といっても震源の位置は様々で、東京圏の中でもいつどこで起きても不思議ではないとされています。

文部科学省の地震調査研究推進本部によると、南関東地域を震源とするマグニチュード7クラスの地震は今後30年以内に70%の確率で発生すると見込まれており、決して遠い将来の話ではありません。

東京圏には日本の人口の約3割が居住しており、中央省庁や企業の本社など政治・行政・経済の中枢機能が集中しています。そのため、首都直下地震が発生した場合には、建物の倒壊や火災による甚大な人的・物的被害が生じるだけでなく、国民生活や経済活動にも広範囲にわたる深刻な影響を及ぼすことが懸念されています。

近郊から通勤・通学している人も多いことから、地震発生の時間帯によっては帰宅困難者が大量に発生するリスクも指摘されています。そうした特性から、首都直下地震への備えは個人・企業・行政が一体となって取り組むべき重要な課題となっています。

発生メカニズム

首都直下地震が発生するメカニズムを理解するためには、東京圏の地下構造を把握することが重要です。東京圏の地下では、フィリピン海プレートと北米プレートという2つのプレートが複雑に絡み合っており、その特殊な地下構造が首都直下地震の発生リスクを高める要因となっています。

フィリピン海プレートは東京圏の地下に潜り込むように沈み込んでおり、その上に位置する北米プレートとの境界部分や、プレート内部でひずみが蓄積することで地震が引き起こされます。さらに、フィリピン海プレートの下にはより巨大な太平洋プレートも沈み込んでおり、複数のプレートが重なり合う複雑な構造が東京圏直下に存在しています。

そのような地下構造から、首都直下地震はひとつの断層や震源によって引き起こされるものではなく、様々な場所で多様なタイプの地震が発生しうる点が特徴です。

国の防災対策では、被害が最も大きく首都中枢機能への影響が大きいと考えられる「都心南部直下地震」を防災対策の主な対象として位置づけており、その地震を想定した様々なシミュレーションが行われています。

過去の被害

首都直下地震と同様のメカニズムで発生した地震は、過去にも繰り返し東京圏を襲ってきました。主な過去の地震を時系列で振り返ります。

元禄関東地震(1703年)

1703年(元禄16年)に発生したマグニチュード8.0前後と推定される大規模地震です。相模トラフ沿いを震源とし、関東全域に甚大な被害をもたらしました。死者は約10,000人以上に達したとされており、江戸をはじめ相模・房総地域で建物の倒壊や津波による被害が発生しました。

安政江戸地震(1855年)

1855年(安政2年)に発生したマグニチュード7.0前後と推定される地震で、江戸の直下を震源としていたとされています。死者は約7,000人に達したとされており、江戸市中の建物倒壊や火災によって甚大な被害をもたらしました。

震源が都市直下であったことから、現在想定されている首都直下地震の被害シナリオと類似点が多く、重要な歴史的事例として知られています。

明治東京地震(1894年)

1894年(明治27年)に発生したマグニチュード7.0の地震で、東京直下を震源として発生しました。死者は約30人と比較的少なかったものの、建物の倒壊や煙突の崩壊など市街地に広範な被害をもたらしました。

近代化が進む東京で発生した都市直下型地震として記録されており、都市部における地震被害の特性を考えるうえで重要な事例のひとつです。

大正関東地震(1923年)

1923年(大正12年)に発生したマグニチュード7.9の大規模地震で、関東大震災として知られています。死者・行方不明者は10万人以上に達し、建物倒壊に加えて地震直後に発生した大規模火災が被害を大幅に拡大させました。

火災による死者が全体の大半を占めたとされており、都市部における地震火災の恐ろしさを歴史的に示す事例として、現在の首都直下地震対策にも多くの教訓を与えています。

首都直下地震の被害想定

首都直下地震の被害想定

災害対策基本法に基づいて設置されている中央防災会議の「首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書」では、都心南部直下地震が発生した場合を想定した被害シミュレーションが示されています。

首都直下地震の特徴は、建物倒壊だけでなく火災やライフライン停止による二次被害が極めて大きい点です。ここでは主な被害想定の内容をわかりやすく解説します。

人的被害・建物被害

首都圏全体の人口は約4,660万人、建物棟数は約1,530万棟と極めて膨大であり、大規模地震が発生した場合の被害規模も甚大なものになると想定されています。

人的被害

死者数は最大約1.8万人と想定されており、そのうち建物倒壊による死者が約5,300人、地震火災による死者が約1.2万人とされています。負傷者数は約9.8万人、揺れによる建物被害に伴う要救助者は約4.4万人、エレベーター内閉じ込めは約1.6万件に達する見込みです。

建物の耐震化は一定程度進んでいるものの、地震の影響を受ける建物の数が非常に多いため、木造家屋等が多数倒壊するほか、急傾斜地の崩壊等による家屋損壊で多数の人的被害が発生するおそれがあります。

また、強い揺れに伴う家具の転倒や出口の閉塞、長周期地震動による高層ビル上層階での家具・什器の転倒なども人的被害の要因として懸念されています。

地震火災による被害

感震ブレーカーの普及や危険密集市街地の解消が一定程度進んだものの、木造住宅密集市街地を中心に大規模な延焼火災が発生するおそれがあります。

地震火災による死者は約1.2万人、焼失棟数は約27万棟と想定されており、全体の死者数・建物被害の大半を火災が占める点が首都直下地震の大きな特徴です。同時複数地点での出火や火災旋風の発生により被害がさらに拡大するリスクも指摘されています。

建物被害

全壊・焼失棟数は最大約40万棟と想定されており、揺れによる全壊が約11万棟、液状化による全壊が約2.0万棟、地震火災による焼失が約27万棟とされています。ブロック塀等の転倒は約7.5万件、屋外落下物が発生する建物数は約1.3万件に達する見込みです。

特に1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅では、大きな被害が発生する可能性があります。

ライフライン被害・交通施設被害

首都直下地震が発生した場合、電力・通信・水道・ガスといったライフラインと交通インフラにも広範囲かつ長期的な被害が生じることが想定されています。

電力

発災直後には東京電力パワーグリッド管内で約1,600万軒(約52%)が停電するおそれがあります。発災1週間後には約69万軒(約2%)まで改善される見込みですが、震度6弱以上の地域で停止した火力発電所は設備被害により発災後1か月程度の運転停止となるおそれがあります。

供給力は被災直後で約2,700万kW(ピーク需要の約48%)まで低下し、計画停電等の需要抑制が必要となる可能性があります。最悪の場合、全域停電(ブラックアウト)に至るリスクも指摘されています。

通信

固定電話・インターネットは、停電の影響により被災直後に約760万回線(約51%)が不通となるおそれがあります。携帯電話については被災1日後に約51%の基地局が停波する見込みで、時間の経過とともに停波エリアが拡大するリスクがあります。

インターネットについても、データセンターの非常用電源が不十分な場合はサービス継続が困難になるおそれがあります。

上下水道

断水人口は発災直後(停電考慮あり)で約1,400万人(約29%)に達するおそれがあります。発災1週間後でも約740万人(約16%)が断水状態となり、完全復旧には1か月以上を要する場合も想定されています。下水道機能支障人口は発災直後で約200万人(約5%)に上り、管路や施設の被災に加え、停電による浄水場・下水処理場の機能停止も被害を拡大させる要因となります。

都市ガス

発災直後に1都3県で約140万戸(約13%)のガス供給が停止するおそれがあります。配管等に損傷がない場合は各戸でのマイコンメーター復帰作業により順次再開されますが、被害を受けた導管等の復旧には1か月以上を要する場合も想定されており、発災1か月後でも約23万戸(約2%)が供給停止状態になる可能性があります。

道路・鉄道

道路施設では路面損傷・橋梁損傷等が高速道路で約80か所、一般道路で約10,600か所など合計約10,900か所で発生するおそれがあります。沿道建築物の倒壊や液状化によるマンホールの飛び出しなども交通を妨げる要因となります。

鉄道は首都圏全線が不通となるおそれがあり、鉄道施設の被害箇所数は新幹線で約70か所、在来線等で約6,200か所、合計約6,300か所に達する見込みです。地下鉄は点検のため全線が不通となるほか、新幹線も広範囲で運転停止となるおそれがあります。

空港・港湾

羽田空港では液状化により4本中1本の滑走路の一部が使用不能となる可能性があり、アクセス道路の寸断による空港孤立のリスクも指摘されています。成田空港については大きな被害は発生せず、使用制限は発生しない見込みです。

港湾では東京湾に立地する岸壁が国際戦略港湾・国際拠点港湾で約230か所(約25%)、重要港湾で約80か所(約9%)など合計約310か所(約34%)で被害が発生し、機能が停止するおそれがあります。

経済被害

首都直下地震による経済的被害は極めて甚大なものになると試算されています。建物等の直接被害と生産・サービス低下による被害を合わせた経済被害は約83兆円に達すると想定されており、日本経済全体に深刻な打撃を与えることが懸念されます。

東京圏には中央省庁や大企業の本社など政治・経済の中枢機能が集中しているため、首都直下地震による機能停止は国内経済だけでなく、国際的なビジネスや金融市場にも広範な影響を及ぼす可能性があります。

その他被害

強い揺れによる製油所の緊急停止により、全国19製油所のうち東京湾沿岸に立地する7製油所の精製機能が停止し、日本全体の石油精製能力が低下するおそれがあります。

また、長周期地震動の影響として浮き屋根式タンク等のスロッシング(液体の揺れ)により重油等が流出し、万一防油堤を越えた場合には火災の発生や周辺港湾の使用継続が困難となる可能性も指摘されています。

燃料供給の停滞は救助活動や復旧作業にも深刻な影響を及ぼすため、コンビナート施設の耐震化と燃料の安定供給体制の整備が重要な課題となっています。

参考:

首都直下地震の被害想定と対策について(報告書)

特集 首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)

首都直下地震への備え

首都直下地震への備え

首都直下地震による被害を最小限に抑えるためには、国や自治体による「公助」だけでなく、一人ひとりが自ら取り組む「自助」と、地域や身近な人同士が助け合う「共助」が不可欠です。ここでは、個人・自治体・企業それぞれが取り組むべき備えについて解説します。

個人・家庭でできること

まず取り組むべきは自宅の耐震化と室内の安全対策です。

自宅の耐震化

特に1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅にお住まいの場合は、耐震診断を受けたうえで必要な補強工事を検討しましょう。

建物の揺れを抑える制震対策

また、近年の地震では大きな本震だけでなく、その後も繰り返し発生する余震によって建物へのダメージが蓄積するケースが少なくありません。こうした被害を軽減するためには、耐震化に加えて建物の揺れを抑える制震対策も有効です。制震ダンパーを導入することで地震エネルギーを吸収し、建物への負担を軽減することが期待できます。

室内対策(家具固定)

室内では、タンスやテレビなど倒れやすい家具・家電を固定し、避難経路を確保しておくことも重要です。また、地震後に発生する通電火災を防ぐため、感震ブレーカーの設置も推奨されています。

備蓄

備蓄については、飲料水や食料を最低3日分、できれば1週間分確保しておきましょう。ライフラインが長期間停止する可能性を考慮し、携帯トイレや懐中電灯、モバイルバッテリー、医薬品なども合わせて準備しておくことが大切です。外出先で被災した場合は、むやみに帰宅しようとせず、職場や一時滞在施設など安全な場所にとどまることが、自身の安全確保だけでなく救助活動の円滑化にもつながります。

自治体・企業が取り組むべきこと

自治体は建築物やインフラの耐震化推進、木造住宅密集市街地の解消、避難所の収容能力拡充など、大規模な被害に対応できる環境整備が求められます。帰宅困難者が約840万人に達することが想定されているため、一時滞在施設の確保と住民への周知も重要な取り組みです。災害時に正確な情報を迅速に発信できる体制の構築も、デマ拡散防止の観点から欠かせません。

企業は事業継続計画(BCP)の策定により、発災後も事業を維持・早期復旧できる体制を整えておくことが重要です。勤務時間帯に被災した場合に従業員が3日間職場にとどまれるよう、食料・水・毛布などの備蓄確保も求められます。また、感震ブレーカーの設置や防火対策の強化など、オフィスや施設における安全対策にも積極的に取り組むことが大切です。

地震が発生した際に取るべき行動

地震が発生した際に取るべき行動

最後に、実際に地震が発生した際に命を守るための行動を確認しておきましょう。

室内にいる場合

強い揺れを感じたら、まずは身の安全を最優先に行動します。机やテーブルの下に入り、頭や首を守りながら揺れが収まるのを待ちましょう。慌てて外へ飛び出すと、ガラスの落下物や倒壊物に巻き込まれる危険があるため避けることが大切です。

火を使っている場合は揺れが収まってから火元を確認し、初期消火は可能な範囲で対応します。また、ドアや窓を開けて避難経路を確保しておくことも重要です。揺れが収まった後は、室内の安全を確認したうえで状況に応じた行動を取りましょう。

屋外にいる場合

ビル街や繁華街では看板やガラスの落下に注意し、バッグや腕で頭を守りながら揺れが収まるまで建物から離れた場所で待機しましょう。海辺では津波の危険があるため、揺れが収まったらすぐに高台へ避難することが最優先です。

「揺れたら逃げる」を徹底し、津波警報が出ていなくても自主的に高台への避難を心がけることが命を守るうえで重要です。山間部や斜面では落石や土砂崩れのリスクが高まるため、できるだけ安全な広い場所へ速やかに移動しましょう。交通機関を利用中の場合は係員の指示に従い、冷静に行動することが求められます。

首都直下地震に備えるために

首都直下地震は、今後30年以内に70%の確率で発生すると見込まれており、その被害規模は死者最大約1.8万人、全壊・焼失棟数約40万棟、経済被害約83兆円と想定されています。「いつか起きるかもしれない災害」ではなく、「いつ起きてもおかしくない現実の脅威」として、今すぐ備えを始めることが重要です。

住宅の耐震化や家具の固定、備蓄の確保など、個人レベルでできる対策から着実に取り組むことが、自分と家族の命を守るうえで何よりも大切です。

近年は耐震化に加え、建物へのダメージを軽減する制震対策への関心も高まっています。

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