大きな地震が発生すると、私たちの生活に様々な影響が生じますが、その中でも特定の地域や場所に深刻な被害をもたらす現象があります。それが「液状化現象」です。
今回は、「地震で起こる液状化現象」をテーマに、その原因や仕組み、そして具体的な影響について詳しく解説します。
さらに、過去に発生した被害例や液状化が起こりやすい場所の特徴にも触れ、実際にどのような場所が危険なのかを見ていきます。
あわせて液状化現象の対策も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
地震で起こる液状化現象とは?
地震が発生した際に、地盤が水を多く含む砂地や堆積層などで、土壌が一時的に液体のような性質を持つ状態になる現象です。
通常、土は粒子同士がしっかりと結びつき、建物や構造物を支える役割を果たしていますが、地震の強い揺れによって地下水を多く含んだ砂の層が振動すると、その結びつきが崩れてしまいます。
それにより、砂粒が自由に動くようになり、まるで液体のように地面が振る舞い始めます。この状態になると、地盤は安定性を失い、地表にある建物や構造物が不安定になり、沈下や傾斜が生じやすくなります。
液状化現象による影響
地震により液状化現象が発生すると「噴水・噴砂の発生」「宅地や建物の被害」「道路の被害」「ライフラインの被害」といった影響が出てしまいます。
噴水・噴砂の発生
地下に含まれていた水分や砂が地表に押し出される「噴水」や「噴砂」が見られることがあります。それらは、地震によって地中の水圧が高まり、地下水や砂が地表に吹き出す現象です。
噴水や噴砂が発生すると、堆積した土砂の撤去作業が必要になるだけでなく、乾燥後に土砂の飛散による粉塵被害も問題となります。
粉塵は周辺の建物や住民に影響を与える可能性があり、風の強い日には拡散しやすく、健康被害も懸念されます。その影響は、地震後すぐに収まるわけではなく、長ければ一ヶ月程度、影響を及ぼし続けることもあります。
宅地や建物の被害
液状化によって宅地や建物に深刻な被害が及ぶことがあります。地盤が急激に弱くなることで、建物が沈下したり傾いたりし、建物の基礎が支えられなくなって構造全体が不安定になることがあります。それにより、建物に亀裂が入ったり、壁が崩れたりすることがあるのです。
また、ドアや窓が開閉しにくくなるなど、日常生活に支障をきたす二次的な被害も発生します。さらに、宅地全体が沈んだり、地面が不均等に沈下する「不同沈下」が起こることもあり、建物の耐久性や居住性に大きな影響を与えます。最悪の場合、家に住み続けることが困難になり、建物の修繕や地盤の補強が必要になることもあるでしょう。
傾いた家に住み続けると、身体に悪影響を与える可能性もあります。例えば、家が傾いていると、日常の動作に違和感を覚えるだけでなく、長時間の生活によってめまいや吐き気などの健康被害を引き起こすこともあります。
道路の被害
液状化現象によって、道路に大きな被害が発生することがあります。地盤が液体状になることで、アスファルトが持ち上がったり、ひび割れが生じたりすることがあり、道路の表面が波打つように変形することもあります。それにより、車両の通行が困難になるだけでなく、歩行者にとっても危険な状態となります。
液状化による道路の損傷は、交通の安全を脅かし、緊急時の救急車や消防車などの出動にも影響を与えるため、深刻な問題です。
交通量の多い道路や主要幹線道路が被害を受けた場合、物流にも大きな影響を及ぼす可能性があります。トラックや配送車が通常通りに運行できなくなり、商品や資材の配送が遅れたり、ストップしたりすることで、経済活動にも支障が出る恐れがあります。
修復には長期間を要することが多く、その間、交通規制や渋滞が発生するだけでなく、物流の滞りによって、経済的な影響が広範囲に及ぶ可能性もあるでしょう。
ライフラインの被害
ライフラインに深刻な被害をもたらすこともあります。地下に埋設されている水道管、ガス管、電気ケーブルなどが液状化によって破損したり、断裂したりすることがあり、それにより広範囲にわたって水道やガス、電気などの供給が停止する場合があるのです。
水道管の破裂は、断水が長期化する恐れがあり、生活に大きな支障をきたし、ガス管が破損するとガス漏れの危険が生じ、火災や爆発のリスクが増大します。
下水道の損傷により衛生状態が悪化することもあり、これが原因で二次的な健康被害が発生することも考えられます。
電気ケーブルの断裂や変電所の損傷によって停電が発生すると、通信インフラにも影響が及び、スマートフォンやインターネットが使えなくなるなど、現代の生活基盤が崩れてしまう可能性もあるでしょう。液状化によって地中のインフラが破損すると、復旧には多くの時間と労力がかかります。
液状化現象の被害例
地震による液状化現象の過去の被害例として「新潟地震」「日本海中部地震」「兵庫県南部地震」「東北地方太平洋沖地震」の事例を紹介します。
新潟地震(1964年)
1964年の新潟地震では、信濃川や阿賀野川周辺で広範囲にわたる液状化現象が発生しました。鉄筋コンクリート造の共同住宅が基礎ごと傾いたり倒壊した例が多く報告されており、港湾施設や埋設管も大きな被害を受けました。
この地震は、液状化現象の研究が進むきっかけとなり、被害が集中した地域が過去に河川の流路だったことが判明しました。この地震を契機に、地盤の液状化が広く知られるようになり、後の防災対策に重要な影響を与えました。
日本海中部地震(1983年)
1983年の日本海中部地震では、秋田県や青森県の沿岸部を中心に液状化現象が確認されました。特に水田地帯を盛土造成して作られた宅地で被害が顕著で、木造住宅の基礎が破断したり、建物自体が変形したりする被害が報告されています。
また、道路の変形や蛇行、埋設管の破損も見られ、液状化が引き起こす地盤の支持力低下に加えて、水平方向への移動も発生することが明らかになりました。この地震をきっかけに、液状化の被害に対する理解がさらに深まりました。
兵庫県南部地震(1995年)
1995年に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、特に神戸市や芦屋市、西宮市の臨海埋立地で液状化現象が顕著に見られました。港湾施設は壊滅的な被害を受け、住宅地でも不同沈下によって多くの家屋が傾き、崩壊した家屋もありました。
淀川沿いの地域では、住宅が大きく傾き、基礎部分が破損する被害が相次ぎました。埋め立てに使用された風化花崗岩の山砂は液状化に強いと考えられていましたが、強い地震動により液状化が発生し、従来の認識が覆されることとなりました。
東北地方太平洋沖地震(2011年)
2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、岩手県から神奈川県にかけての広範囲で液状化現象が発生しました。埋立地を中心に被害が甚大で、戸建住宅が傾いたり地盤沈下が進行したりなどの被害が多く報告されています。
液状化による噴砂や地盤沈下がライフラインに大きな影響を与え、水道管やガス管が建物の引き込み部で破損するなど、生活インフラにも深刻なダメージが広がりました。
この震災では、液状化による被害の規模が過去に例を見ないもので、地震動の強さや継続時間の長さが被害を拡大させた要因となりました。
液状化現象が起こりやすい場所の特徴
液状化現象が起こりやすい場所には、いくつかの特徴があります。まず、地表面から深さが15〜20メートル程度の浅い地盤であることが挙げられます。
特に、地盤が砂質土で構成されている場合、その砂の粒径が比較的均一で、粗さが中程度の砂(中粒砂)であると液状化のリスクが高くなります。また、地下水位が高く、地盤が水で飽和していることも重要な要素です。
さらに、地盤の強度を示す指標であるN値が20以下の場合、地震の揺れによって地盤が容易に液状化しやすくなります。通常、中粒砂が液状化しやすいとされますが、地震の強さや排水条件によっては、細粒土や粗粒土でも液状化が発生することがあります。
具体例
埋立地
海や川を埋め立てて作られた土地は、地盤が緩く水を多く含んでいるため、地震の際に液状化が起こりやすいです。臨海部の埋立地はそのリスクが高くなります。
河川の近く
川沿いや河口付近の地域も、地下水位が高く、砂質土が堆積しているため、地震の際に液状化現象が発生しやすい場所です。
旧流路・池・沼地
昔の川や池、沼地を埋め立てた場所も液状化のリスクがあります。それらの場所は地下に水分を多く含んでおり、地震の際に地盤が不安定になりやすいです。
砂丘の裾・砂丘間低地
砂地が広がる地域でも、特に砂丘の周辺や間にある低地は、水を含んだ砂地が液状化しやすい条件を満たしています。
砂鉄や砂礫を採掘した跡地の埋め戻し地
過去に砂鉄や砂礫を採掘した後に埋め戻した土地は、地盤が緩く、地震の際に液状化が発生する可能性があります。
沢埋め盛土の造成地
山間部などで造成された沢埋め盛土の地域も、地盤が弱いため、地震の際に液状化や地盤沈下が発生するリスクがあります。
これらの地域では、液状化による地盤の沈下や建物の損傷などの被害が発生する可能性が高く、特に注意が必要です。
液状化現象対策
地震による液状化現象の対策としては「液状化が起こりづらい土地を選ぶ」「地盤改良工事をする」「堅固な地盤まで杭を打つ」「建物のバランスや重さに配慮する」「地震保険に加入する」というのが挙げられます。
液状化が起こりづらい土地を選ぶ
液状化現象は特定の地質条件で発生しやすいため、土地を購入する際には、その地域で過去に液状化現象が発生していないか、地盤が安定しているかを確認することが大切です。
事前に地質調査や地盤の履歴等を確認し、その土地がどのような状態にあるかを把握することで、リスクを回避できます。ハザードマップの活用も非常に有効です。各自治体が提供しているハザードマップは、地震や津波、洪水などの自然災害に対するリスクが可視化されており、液状化が発生しやすい地域も示されています。
それにより、地盤が液状化のリスクがあるかどうかを事前に確認でき、土地選びの際に参考にすることができます。
強固な地盤を選ぶことで、長期にわたり安全で安心して暮らせる住環境を確保することができるでしょう。
地盤改良工事をする
地盤改良工事を行うことで、液状化現象のリスクを軽減することが可能です。柱状改良工法や表層改良工法などが一般的な方法として挙げられます。
柱状改良工法
水で溶いたセメント系固化材を地上で撹拌し、地盤に柱状の構造体を築造する方法です。地盤の強度を高め、建物の沈下や傾きを防ぎます。軟弱地盤に効果的であり、深さのある地盤改良が必要な場合に適用されます。
表層改良工法
セメント系固化材を地盤の表層部の土と混合し、面的に地盤を強化する工法です。比較的浅い地盤の改良に効果があり、コストパフォーマンスも高いため、液状化リスクが比較的低い場合や浅い地層の補強に適しています。
既存の建物がある場合の対策としては、圧入締固め工法や薬液注入工法、格子状改良工法、地下水位低下などが挙げられます。
圧入締固め工法
建物直下の地盤に層状にモルタルを圧入し、地盤を圧縮して密度を高める方法で、短期間での実施が可能です。
薬液注入工法
薬液を注入して地盤を固化し、液状化を抑制することが可能です。大規模な建物に適していて、建物の沈下を軽減できます。
格子状改良工法
地盤を格子状に改良し、液状化時の地盤の変形を抑えます。しっかりと地盤を補強するため、長期的な対策として有効です。
地下水位低下
井戸を掘り、地下水位を低下させることで液状化を防ぐ手法です。
堅固な地盤まで杭を打つ
小口径杭工法などで、堅固な地盤まで杭を打ち込み、建物を安定させる方法も効果的です。しっかりとした地盤まで杭を打つことで、建物の基礎が強化され、沈下や傾斜のリスクを軽減できます。
小口径杭工法
鋼管杭を用いて堅固な地盤まで回転貫入または圧入することで、建物の基礎をしっかりと支える仕組みです。堅固な地盤に杭を届かせることで、液状化による地盤の沈下や変動にも耐えられる安定した基礎になります。
建物のバランスや重さに配慮する
建物の設計段階からバランスや重さを調整することも、液状化による被害を防ぐために重要なことです。
具体的には、建物が均等に荷重を分散できるように設計し、過剰な重さが特定の部分に集中しないようにすることが求められます。また、建物の形状や配置に工夫を凝らし、重さをバランスよく配分することで、液状化による沈下や傾きのリスクを軽減できます。
液状化リスクが高い地域では、軽量な構造材を使用し、建物全体の重量を抑えるのが有効です。それにより、地盤への負荷を軽減し、液状化が発生しても建物が著しく沈下することを防ぐことができます。
地震保険に加入する
地震保険に加入することは、液状化現象による被害に対する備えとして有効です。地震保険は、地震、津波、火山の噴火による損害をカバーするだけでなく、液状化現象によって建物が沈下したり、傾いたりした場合にも適用されます。
それにより、修理費用や建物の再建にかかる多額のコストを保険でカバーすることができ、被災後の生活再建に大きく役立ちます。
液状化リスクが高い地域では、予測できない被害が発生する可能性があるため、地震保険に加入しておくことで安心感を得られるでしょう。
地震で起こる液状化現象について
この記事では、地震で発生する液状化現象について、その仕組みや影響、また液状化が起こりやすい場所の特徴について解説しました。液状化現象は、地震によって砂質地盤が液体のように変化し、建物や道路などに深刻な被害をもたらす現象です。
埋立地や河川の近くといった特徴的な地盤では液状化が起こりやすく、過去の震災でも様々な被害が報告されています。被害を最小限に抑えるためには、液状化しにくい土地の選択や地盤改良工事といった事前対策が重要です。また、地震保険への加入も万が一の備えとして有効です。
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