【地震災害】BCP(事業継続計画)とは?策定方法・注意点などを解説

耐震・制震・免震

地震大国日本では、数年または数十年に一度の頻度で大規模な地震が起きています。大地震によって電力供給、製造設備、物流網などが停止すると、企業の事業活動に多大な影響を及ぼすことになります。近年では東日本大震災(2011年)や、新潟県中越沖地震(2007年)、熊本地震(2016年)によって、様々な企業が事業活動に大きな影響を受けることとなりました。

突然の緊急事態に遭遇した場合でも、被害・損害を最小限に抑え事業を継続するための計画(BCP)の策定が求められています。今回はこの「BCP」について詳細を解説していきます。

地震災害のBCP(事業継続計画)とは?

BCPについて、必要性・メリット・防災との違いの観点から解説していきます。

BCPとは?

BCPとは事業継続計画(Business Continuity Plan)の頭文字を取った言葉で、企業が自然災害、テロ、システム障害などの非常時に遭遇した際に、重要な業務を継続し、早期に復旧するための計画です。事業資産の損害を最小限に抑えつつ、中核となる事業活動を持続するための方策を平常時から準備しておくものであり、緊急時でも事業運営を続けるための具体的な行動指針を示しています。

BCPの必要性

BCPは大規模災害など不測の事態が発生した際に、事業の途絶を防ぎ、顧客の信用を維持し、株主や市場からの信頼を得ることで最終的に企業価値の維持・向上につながるものです。特に中小企業においては、災害などで事業の継続が難しくなると廃業に追い込まれるリスクがあるので、BCPの策定・実行は企業存続にとっても非常に重要となるのです。

BCPを策定しておけば、災害等で重要な業務を中断させない、あるいは中断しても早期に復旧できるようになります。平時から策定したBCPに基づいて教育・訓練を実施して、見直し改善を加えながらマネジメントすることで、非常時であっても事業の価値を保全でき、外部から見ても信頼できる企業体制にできるのです。

BCPを策定することには、以下4つのメリットがあります。

  • 事業運営上の重要業務を特定できる:BCPを策定する過程で会社における中核事業・中核業務を明らかにでき、中核を担うための拠点、設備も把握可能となります。BCPを作ることで、事業を進める上で重要な要素を明文化して棚卸しできるようになるのです。
  • 災害に対して強い企業にできる:BCPで大規模災害のリスクを洗い出すことで、実際に災害が起きたときの対応力を組織的に高められるようになります。また、事業の早期復旧プランを予め検討しておくことで、災害時の業績への影響を最小限にできます。
  • 企業価値を高められる:災害時の業績影響を最小限にでき、安定して製品やサービスを供給できる状態にしておくと、取引先や消費者から信頼されることはもちろん、株主から見ても価値の高い企業だと見られるようになります。結果として、企業価値が向上して、事業の拡張性向上につながっていくでしょう。
  • 地域社会の発展に貢献できる:大規模災害時に早期復旧ができる体制を作っておけば、地域における雇用の安定につながります。また、地域の防災拠点として機能させることができれば、地域社会への貢献度はさらに高いものとなるでしょう。

防災対策とBCPの違い

中小企業庁がまとめた「BCPの必要性と国の支援策について」によると、従来の防災対策とBCPには以下のような違いがあります。

従来の防災活動BCP
主な目的身体・生命の安全確保物的被害の軽減身体・生命の安全確保に加え、復旧等を速やかに行う事業継続
考慮すべき事象拠点がある地域で発生することが想定される災害自社の事業中断の原因となり得るあらゆる事象を想定(地震、風水害、火山、新型インフルエンザなど)
重要視される事項人的、物的の被害を最小限にすること従業員等の安否を確認し、被災者を救助・支援すること被害を受けた拠点を早期復旧すること左の事項を確保するとともに、自社の事業継続を図るために必要な「顧客と収益を確保し、企業として生き残るための方策」「関係者(取引先・地元・地方公共団体)との協力」
活動、対策の検討の範囲自社の店舗・設備被災していない自社・グループ拠点を含めた全社自社の取引先自社が存在する地域の地方公共団体・団体など
取組の単位、主体防災部門、総務部門、施設部門等、特定の防災関連部門経営者を中心に、各事業部門、調達・販売部門、サポート部門が横断的に取り組む
検討すべき戦略・対策の種類拠点の損害抑制と被災後の早期復旧対策代替拠点の確保、拠点や設備の二重化、OEMの実施早期復旧に向けた取り組み

防災対策は身体の安全や物的被害の軽減や被害拡大防止にフォーカスしています。それに対してBCPは防災対策を踏まえた上で「災害からの早期復旧と事業の継続」に重点を置いて事業継続に関わるすべてのことを包括的に網羅しています。

たとえば、防災対策では主に災害に見舞われた自社の店舗や設備を検討の範囲にしているのに対して、BCPでは被災していない拠点や、社外の取引先や地域も含めて検討の対象です。実際に災害が起きたときに、自社店舗の被害が軽微であっても仕入先に問題があれば、早期復旧や事業継続には大きなリスクとなってしまいます。BCPでは災害時の被害の有無ではなく、事業の継続を論点としているので、必然的に検討の範囲は広がっていくのです。

そのため、BCPでは取り組みの主体が単に防災関連の特定部門だけにとどまらず、経営層を中心にして全社横断的に取り組んでいく必要があります。また、万が一自社工場や仕入先が甚大な被害を受けた場合は、速やかに代替拠点・代替仕入先を活用して復旧できるように検討しておくこともBCPでは大事になってきます。

BCPは策定した後も継続的な改善が必要で、従業員に周知徹底させることが重要です。

BCPの策定方法・流れ

BCPの策定方法・流れとして、以下7つのステップがあります。

  • BCP策定の目的を明確にする
  • 事業活動における重要業務や拠点を洗い出す
  • 想定されるリスクを洗い出す
  • リスクに優先順位をつける
  • 具体的なBCPを策定する
  • 社内で周知する

BCP策定の目的を明確にする

BCP策定ではじめにやることは、BCP策定の目的を明確にしましょう。目的を作るためには、企業組織の経営理念や経営方針などの原点に立ち返ることが重要です。一般的にBCPの目的をなり得ることは、以下3つの観点です。

  • 従業員を守ること:BCP対策を考える際には、はじめに企業活動の基礎となる従業員の生命・健康を守ることです。従業員の物理的・心理的安全を保つことを何よりも最優先で考えていきましょう。また従業員を守ることを考える際には、さらにその家族の生活を守ることまで考えていく必要もあります。
  • 事業を守ること:従業員の次に大事なのが事業です。事業を継続させることは、従業員の生活を守ることにつながるのはもちろん、取引先の事業を継続させて取引先の従業員の生活を保つ観点でも重要となります。仮に災害によって事業を停止することがあっても、速やかに復旧させる取り組みが大事です。事業を守ることは、地域社会の維持・発展にも寄与します。
  • 企業価値を向上させること:BCPの策定は事業の継続性を高めて、結果として企業価値の向上にもつながります。災害時にも事業継続できる企業は、取引先や株主からの信頼度も高い企業といえ、その高い信頼度が企業価値にも反映されます。企業価値の向上は、事業を発展させるための基礎となります。

事業活動における重要業務や拠点を洗い出す

BCP策定の目的を決めたら、事業活動における重要業務や拠点を明らかにしましょう。

重要業務とは、企業の売上を支えるために最も重要な業務のことです。災害時は利用できるリソースに限りがあるので、その限りあるリソースは重要業務に優先的に投下しなければなりません。たとえば、小売業なら食品や生活必需品など災害時にも必ず必要となる商品の仕入れ・販売の継続が最重要業務となるでしょう。製造業だと、中核となる事業における製品の材料仕入、製造、配送などが重要業務となるでしょう。

ここでいう中核となる事業は、企業にとって売上の核となる事業の場合や、サプライチェーンにおける重要度の高い事業の場合もありますし、社会におけるニーズの高い事業の場合もあります。中核となる事業や製品は、何かを平時から想定しておけば、災害時に判断に迷うこともないでしょう。

想定されるリスクを洗い出す

重要業務を洗い出したら、次にリスクを洗い出します。リスクとは企業にとって発生すると困ることで、リスクは具体的な対策を立てるためにも正確に言語化しておく必要があります。

たとえば地震発生時のリスクを考える場合は、生産設備の破損、システムの故障、材料の仕入れができない、流通ルートが機能マヒなどが考えられます。ほかにも従業員が出社できないことや、液状化によって建物が傾くなどの立地によるリスクも考えておく必要があるでしょう。想定されるリスクは、細分化して検討する必要があります。

リスクに優先順位をつける

想定されるリスクを洗い出したら、次に洗い出したリスクに優先順位をつけます。すべてのリスクに対処する方法を検討するのは現実的ではないので、事業へのインパクトが大きなリスクに集中して検討を深めておく必要があるからです。

優先順位を決めるときにポイントとなるのは、リスクの発生頻度とそのリスクが起きたときの深刻度です。たとえば、大雨の場合は年に1-2回は想定されますが、大規模地震の場合は数年から十数年に一度かもしれません。しかし、頻度が低くても大規模地震の場合は、発生したときに事業に与える深刻度が高いので、決して無視できる事象ではないでしょう。

具体的なBCPを策定する

次に、具体的なBCP案を策定していきます。基本的な対策として挙げられるのが、緊急時に機能を代替できる状態を作ることです。

小売業なら食品や生活必需品の供給を止めないように代替えできる仕入先を確保したり、配送業者を複数取引できるようにしたりするなどの対策が考えられるでしょう。製造業なら部品の調達先を国内外に分散して、1つの部品を複数の仕入先から調達できるようにすることが対策の1つとなります。

また、従業員が一時的に不足したときに備えて、平時の社内ローテーションによって緊急時に重要業務を担当できる従業員を教育しておくことや、建物が被害を受けたときのために指揮命令できる拠点を複数用意しておくことも重要でしょう。

社内で周知する

BCPを策定したら、社内に周知しましょう。BCPは一部の社員だけでなく、全社員が正しく理解していないと十分に機能しないからです。社内周知の方法としては、定期的な研修や訓練などがあります。

BCP策定に関する注意点

BCP策定に関する注意点として、以下2つのことが挙げられます。

  • 自社で実現可能なBCPを策定する
  • 継続的な改善を前提にする

自社で実現可能なBCPを策定する

BCPは、自社で実現可能な計画にしないと意味がありません。BCPは事業継続にとって重要なことなので、計画段階でついつい完璧を求めてしまいがちですが、完璧な計画を求めてしまうと、実行場面で機能せずに満足に運用できない可能性もあります。また他社の事例・テンプレートを活用してすると、自社にとって適した内容でなくなる可能性もあるでしょう。

継続的な改善を前提にする

事業環境や災害の頻度・特徴は時代とともに変わるので、一度作ったBCPは、定期的にアップデートしていきましょう。たとえば、策定したBCPを試験運用してみて、運用の中で見つかった課題の改善を繰り返すことで、より完成度の高い事業環境に適合したBCPへと進化させていけます。

BCP対策が生かされた事例

ここからは内閣府「防災情報のページ」に記載されている内容をもとに、BCP対策が生かされた事例を4つ紹介していきます。

事例①:スーパーマーケット

2004年に新潟県中越地震で被害を受けた経験から、震災が起きても店舗を通常どおり開店できることを目標にして、BCPに取り組んだ新潟県のスーパーマーケットの事例です。BCPの中で、以下のことが計画・実行されました。

  • 被災地で需要の大きな商品と、その調達先リストの整備
  • 被災経験を踏まえた業務マニュアルの改訂
  • バックアップとなる物流センターの設置
  • 地震計連動緊急停止装置のついた商品仕分け機の設置
  • 「震災が起きても店舗を開店する」という目標を全社に共有

これらのことを実施したおかげで、震災時でも継続して店舗を開店できる体制ができました。実際に2007年の新潟県中越沖地震では、2004年よりもはるかに迅速に店舗営業を再開できる結果となったのです。

事例②:半導体集積回路の製造会社

2003年に震度5強の地震から工場が復旧するまでに1ヶ月かかった経験を踏まえて、震度6強の地震を想定してBCPを策定しました。BCPの中で、以下のことが計画・実行されました。

  • クライシス対策委員会を経営直下に設置
  • 行動マニュアルを作成と訓練の実施
  • 地震による初期微動の段階で自動停止する生産設備への投資

これらの施策の結果、2008年の震度5強の地震では致命的な被害がなく、地震から4日後には工場をフル稼働できる結果となりました。

事例③:自動車用鋳造金型の設計製作会社

この会社では、BCPの中で、以下のことが計画・実行されました。

  • 設備復旧手順の社内マニュアル化
  • 業務ノウハウ継承のためのPCによる知識共有化
  • 全社勉強会の実施(毎月)
  • 災害発生時の基本方針や対応手順の周知徹底

これらの施策の結果、2007年の新潟県中越沖地震で震度6強の揺れに見舞われながら、地震発生の翌日には生産を開始して、わずか1日だけの遅れで出荷できるようになりました。

事例④:自動車の車両開発・生産会社

この会社では、BCPの中で、以下のことが計画・実行されました。

  • トップのリーダーシップのもと危機管理委員会を設置
  • リスク項目に対する評価と防災対策の実施
  • 全社対策本部と地域別対策本部で連携した訓練の実施

これらの施策の結果、2008年の岩手・宮城県内陸地震で震度6弱の揺れに見舞われながら、地震発生から2時間半後には対策本部会議を実施でき、わずか2日後には通常操業ができる状態となりました。さらにその経験を生かしてBCPを磨き上げた結果、2009年の駿河湾地震の被災時も大きな被害を防げたのです。

地震災害のBCP策定は重要

BCPの対策の一つとして地震対策があります。地震対策を考えるときには、地震発生後の対応だけでなく、地震による被害を未然に防止する方法を考えることも重要です。

アイディールブレーンでは、効果的な地震対策ができる製品やサービスを多数取り揃えています。「BCP対策の一環として、大規模地震への備えをしたい」とご検討中の方は、ぜひアイディールブレーンまでお問い合わせください。地震対策のプロ集団がサポートいたします。

>>アイディールブレーンの詳細はこちら

関連記事

特集記事

TOP